2021.5

火渡り

先日、長野県東筑摩郡朝日村の古川寺(こせんじ)様にて初めて火渡りを体験させていただきました。

火渡りとは燠(おき)の上を素足で歩く儀礼のことです。その先には仏が祀られているので、仏に向かって歩く構図になります。

火渡りの直前までは赤い燠を目の前にして気が張っていました。その熱は数メートル離れていても頬に伝わってきます。

火の残る燠の上を歩くときの熱さは想像以上でした。足裏が鋭い錐で突き刺されているような感覚です。

渡り切ったときの解放感は格別でした。終わったという安堵より、何か不要なものが削がれてすっきりした気持ちになったことを覚えています。

これは、渡っている最中(数秒とはいえ)火によって雑念が滅せられたからかもしれません。


南無大師遍照金剛
(なむだいしへんじょうこんごう)

真言宗の仏事では「南無大師遍照金剛」とよく唱えます。これは宗祖空海を敬い拝むための言葉です。

「南無」とは古代インド語のナモを音写したもので、信じる、頼りにするという意味です。南も無も関係はありません。

「大師」は天皇から高僧に贈られる尊称で、諡(おくりな:人の死後に贈る称号。生前の功績を讃えて付ける。)でもあります。空海は醍醐天皇より弘法大師という大師号を授かりました。

金剛とはダイヤモンドのことです。ダイヤのような堅固さと輝きを持ち合わせ、周りを万遍なく照らす。これが「遍照金剛」の意味です。空海は唐で真言密教を学びました。そのときに遍照金剛という名を、師匠の恵果(けいか)から与えられました。

空海、遍照金剛と、とにかくスケールの大きい名前です。それだけの人物だからこそ、1000年以上経った今も我々がその名をお唱えしているのだと思います。